2023.06.21
大気圧プラズマ処理の分析-1 XPS
物質表面を大気圧プラズマ処理することで、濡れ性(親水性)や接着性など、表面の特性を変化させる効果が期待されます。
このような物質表面の特性を変化させる効果は、大気圧プラズマ処理によって「物質表面が改質する(表面改質)」ことによって得られます。
物質表面の特性を分析することで、大気圧プラズマ処理によって起きた変化や反応のメカニズムを探ることが出来ます。
しかし、大気圧プラズマ処理後の表面状態を正確に分析することは、容易ではありません。
なぜならば、大気圧プラズマ処理した物質表面は、極めて活性の高い状態のため、例えば、室内で放置している間にも刻々と状態が変化していきます。
つまり、大気圧プラズマ処理した直後に、速やかに分析を行う必要があるのです。
大気圧プラズマ処理した物質表面の分析方法には、様々な手法があります。
例えば、以下のような分析方法があります。
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・大気圧プラズマ処理された表面の形状や粗さを調べることで、大気圧プラズマ処理の効果を評価することが出来ます。
・光学顕微鏡(OMS)や走査型電子顕微鏡(SEM)などの観察方法があります。
・処理された表面の元素分析や化学的変化を分析することで、大気圧プラズマ処理による表面改質の程度を評価することが出来ます。
・X線光電子分光法(XPS)やエネルギー分散型X線分析(EDX)などの分析方法があります。
・大気圧プラズマ処理によって表面の電荷状態が変化する場合があります。
・電位測定や表面電位分布測定などによって表面の電荷状態を分析する方法があります。
・処理された表面の物理的および化学的特性を評価することで、プラズマ処理の影響を見ることが出来ます。
・接触角測定、摩擦試験、硬度試験などの評価方法があります。
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これらの分析方法を用いて、大気圧プラズマ処理された物質表面の変化を評価することが出来ます。
また、これらの分析手法を組み合わせることで、プラズマ処理による物質表面の変化を、総合的に評価することが出来ます。
今回は、数ある分析手法の中からXPS分析を紹介します。
XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)は、物質表面から放出される光電子を検出し、そのエネルギー分布を測定することで、試料の最表面数nm領域の元素組成や化学的結合状態を非破壊的に解析することが出来ます。
XPS分析は、プラズマ処理によって生成した官能基を高感度で評価するために有効です。
シリコーンゴムはある条件下で大気圧プラズマ処理を施すと、接着剤レス接着が出来ます。
(関連記事:接着剤レスで難接着性素材を高速接着)
そこで、シリコーンゴム表面が大気圧プラズマ処理によってどのように化学的変化を起こしているのか探る為、XPS分析を実施しました。
※シリコーンゴムのプラズマ処理表面のXPS分析の結果を解析をするにあたり、『研究資料 198-2_シリコーンゴムの分析 第4章』を参考しました。
試料:ブランクはプラズマ未処理のシリコーンゴム、プラズマ処理はプラズマ処理したシリコーンゴムを示す。
大気圧プラズマ処理後のシリコーンゴム表面のXPS分析結果を図1に示す。
得られたピークは、酸素原子(533eV)、炭素原子(283eV)、Si(102eV)。
図1.大気圧プラズマ処理後のシリコーンゴム表面のXPS測定結果
大気圧プラズマ処理後のシリコーンゴム表面の組成比率を、図2に示す。
大気圧プラズマ処理前の表面組成はC:O:Si = 2:1:1であり、ポリジメチルシロキサン骨格の比率であった。
大気圧プラズマ処理後は炭素原子(C)濃度%が減少し、酸素原子(O)濃度%が増加し、表面組成はC:O:Si = 2:2:1となった。
ケイ素原子(Si)濃度%は、大きな変化は見られない。
以上の分析結果から、大気圧プラズマ処理により、側鎖のメチル基が酸素を有する極性基に変化したと考えられる。
図2.大気圧プラズマ処理後のシリコーンゴム表面のXPS原子濃度
図3にSi2pの波形の結果を示す。
-[-Si(-CH3)2-O-]-をSi2+として、-[-Si(-CH3)(-OH)-O-]-をSi3+ および -[-O-Si(-OH)2-O-]-をSi4+とみなし、ピーク位置をそれぞれ102.2, 103.0,103.8eVとして波形を見た。
大気圧プラズマ処理前はSi2+が90%以上を占めるのに対して、大気圧プラズマ処理後はSi3+やSi4+も数10%存在している。
以上の分析結果から、大気圧プラズマ処理により、水酸基(OH基)が増加したと考えられる。
図3.プラズマ処理後のXPS-Si2pスペクトル
図4にC1sの波形の結果を示す。
ブランクに比べ、大気圧プラズマ処理によって、炭素(C)が半分近く減ったことが言える。
図4. プラズマ処理後のXPS-C1sスペクトル
図5にO1sの波形の結果を示す。
大気圧プラズマ処理によって波形が高エネルギー側にシフトしていることから、おそらくSi-OH基が増加したと考えられる。
図5. プラズマ処理後のXPS-O1sスペクトル
図6に炭素(C)とケイ素(Si)、酸素(O)とケイ素(Si)の原子濃度%の比の関係を示す。
図6に示す直線は、-[-Si(-CH3)2-O-]-にプラズマ処理を行い、-[-Si(-CH3)(-OH)-O-]-成分に変化し、最終的に-[-Si(-OH)2-O-]-ユニットを生成したと想定している。
これを炭素(C)とケイ素(Si)、酸素(O)とケイ素(Si)の比の関係で表すと、C1s/Si2p=2とO1s/Si2p=3を結ぶ直線上から、Si-OH基の増加とともに、C1s/Si2p=0とO1s/Si2p=3に移行する。
ブランクに対して大気圧プラズマ処理後は、直線よりの右下側にプロットが位置しており、C1s/Si2p=1.6と O1s/Si2p=1.6の結果から、①と②のような化学構造に近い原子濃度比になっていると考えられる。
① C1s/Si2p=1.7 O1s/Si2p=1.4
② C1s/Si2p=1.7 O1s/Si2p=1.5
図6. 炭素(C)とケイ素(Si)、酸素(O)とケイ素(Si)の原子濃度%の比
大気圧プラズマ処理した物質表面の変化を評価する方法は、1. 表面状態の分析、2. 化学組成の分析、3. 表面電荷の分析、4. 表面物性の評価など様々あります。
これらの分析方法は、試料の性質や目的によって選択する必要があります。
弊社では、大気圧プラズマ処理した物質表面の分析を承っております。
ぜひ、お気軽にお問合せください。